新義真言教学研究会 報告
宗祖ご誕生1250年を迎えるに際し、令和3年度より、宗学研究室は「新義真言教学研究会」を立ち上げた。当研究会は、中世期の論義、とくには新義学派の論義をとおして、新義教学、ひいては真言教学を改めて学び直すための研究会である。
これまでの論義の研究は、同じ宗内での研究にとどまり、新義・古義を通じた横断的な研究はなされてこなかった。そこで、平成29年に、真言教学や宗学の研究を、総合的かつ横断的に行い、真言教学研究の深化、および各山独自の教学の特徴を明らかにすることを目指した「真言教学研究会」が設立された。真言教学研究会では、高野山・豊山派・智山派を中心に新義と古義の研究者が一堂に会し、教学的対話をもって相互理解を深めている。
宗学研究室では、新義真言教学研究会において新義教学の研究を重ね、その成果を携えて、真言教学研究会に参加している。
さて、令和6年3月11日(月)大正大学にて開催された「真言教学研究会」に新義真言教学研究会も参加したのでここに報告する。
当日は「十地仏果・仏果開合」をテーマに、高野山・豊山・智山より各一名ずつ、計三名の発表が行われた。智山からは本年度より准研究員として宗学研究室に配属された、笠原隆宏師が発表した。
「十地仏果・仏果開合」は、『大日経』に「所謂初発心より乃至十地に至るまで次第に此の生を満足す」と説かれる文について、仏果を十地に含めるか、仏果を十地の別に立てるのかを論ずる論義である。これを古義では「十地仏果」と題し、新義では「仏果開合」と称する。そして、この論義は古義と新義で見解が異なり、古義は仏果を十地に含め、新義は仏果を十地の別に立てる。
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発表①
はじめに、大正大学博士後期課程の佐藤憲英師より「十地仏果・仏果開合」の前提事項が確認され、本テーマに関する典拠や基礎知識、先行研究等が示された。
発表②
次に、古義派の視点から、高野山大学密教学科助手の小林拓夢師より「「十地仏果」と「拳菩薩正覚」―『宗義決択集』における因位と果位を中心に―」と題する発表が行われた。
発表③
続いて、新義派の視点から、智山伝法院准研究員の笠原隆宏師より「新義真言宗における「仏果開合」解釈」と題する発表が行われた。
各師の発表の後、一時間ほど質疑や議論の時間があり、盛況のうちに閉会となった。
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真言教学研究会では、新義・古義の垣根を超えて、若手からベテランまで、主に宗学を専門とする研究者が集まり、論義に関する議論を重ねている。研究会の成果は『現代密教』と『真言教学』にて報告し、今回の内容は『真言教学』第4号に掲載予定である。回を追って少しずつ参加者も増え、今回は三十名以上の参加があった。
古義と新義を通じて、真言教学に関する論義は山ほどあり、教主義をはじめ、同じテーマでありながら両者の間で見解の異なる論義も多々見られる。見解の相違の理由などわかっていない事柄もたくさんあり、研究の深化が俟たれる分野である。
本年度より宗学研究室には新たに三名の准研究員が加わった。新義真言教学研究会においても活発な議論を行いたい。
常勤研究員 鈴木晋雄